井澤印房 店主紹介

 

良いと思う印鑑は

「井澤印房」井澤博文代表は印鑑づくり37年のベテラン職人。昭和49年に祖父が創業した「井澤印房」の後を継ぎ、作業効率の良い最新式の印章彫刻機をいち早く導入し、個人及び佐伯市内の会社を主な顧客として印鑑づくりを行ってきた。

最近は景気低迷で個人客が減少し、新会社の設立件数も少なくなり、「かつてに比べると売上高が激減して非常に厳しい状況下にある」といい、「この先、我々のような印鑑屋が完全になくなることはないとは思うが、次第に先細りしていく」と悲観的な見方をしている。

実印をはじめ銀行印や認め印、会社印など様々な種類がある印鑑は、価格的には”乱売状態”にある。

中には1セットで10万円を超えるような高級品もあるが、インターネットで売っているのをみると実印であっても800円という超破格値の印鑑もある。つまり、数百万円から数万円までまちまちだが、この価格差は象牙や水牛、あかね、本柘植といった材質の違いというよりは、「手彫り」や「手仕上げ」「機械彫り」といった彫り方によるところが大きい。

近年は印章彫刻機の性能が飛躍的に向上し、機械彫りであっても「手仕上げ印鑑」「手彫り印鑑」を謳って販売されているケースが多く、素人では簡単には見抜けないのが実態である。重要な契約時に押すことが多い実印や会社印といった登録印鑑は、紛失はもちろん、偽造・悪用など一歩間違えば大きな金銭的被害を被ることもある。

印鑑というのは新社会人になったり、結婚記念、あるいは会社創業など人生の節目に当たって作るケースが多い。実印や会社印、銀行印は、いわば人生を変えてしまうほど大切なものであり、紛失や盗難に気をつけ、さらに偽造できないような精緻な印鑑を持つことが特に重要である。

しかし、井澤代表は「皆さんが使われている印鑑を見せてもらうと、良い印鑑だなと感心させられるようなものはほとんどない」という。印鑑に対してあまりにも簡単に考えすぎていると嘆いている。井澤代表は決して価格の高い印鑑を薦めているわけではない。頻繁に作り変えるものではないため、職人が心を込めて丁寧に作ったものを使用して欲しいのだという。

 

ネット通販で新規需要を開拓

井澤代表の印房には、いわゆる三文判も置いているが、印鑑づくりの基本は予め作り置きしたのを売るのではなく、注文を受けてから1個1個丁寧に彫り上げるのが基本だ。そのため、後を継いだ昭和49年には佐伯市の業界ではいち早く印章彫刻機を導入。完全手彫りの印鑑づくりは年間に数えるほどしかないが、仕上げは必ず手で行ってきた。

そんな井澤代表が最も得意とするのが、「他にはない独自字体の印鑑」である。現在の印鑑づくりはパソコン内に印鑑に使われる吉相体や篆書体、古印体、隷書体、行書体、楷書体などのフォントがあれば「わずかな時間ですぐにできる」が、この作り方だと個性がない。同じ字体の印鑑がすぐにできるし、真似をするのも簡単だからだ。

 

他にはない印鑑をつくる

かつては実印といえば価格が高くても、技術を競い合いながら作られていた。機械によって、どこの誰にも簡単に実印が作れる現在は、「実印としての意味が無くなってきている」と感じているが、「字体に工夫を凝らし、微妙なカーブなどを丁寧に再現し、他にはない印鑑を作っている」点が井澤代表にわざわざ印鑑づくりを依頼する一因となっている。

井澤代表がもうひとつ得意としている技術が会社印に代表される極細文字である。デザイン性の高い、独創性に富んだ手作り文字の価値を認めてもらい会社印の受注につなげたい意向である。ただ誰にでもできる機械彫りは細かいところが不得意であり、その部分は極力手に置き換えて対応していく方針である。

 

「ホームページを開設しても効果はないかもしれないが、やってみる価値はある」という井澤代表。

印鑑の値段や価値は材質ではなく、文字づくりに手間暇をかけたかどうかにかかっていることを広く訴え、”本物の印鑑”を知ってもらうことで新たな需要を喚起しようとしている。

 

            <大分県産業創造機構発行 「創造おおいたNo.121」 より転載>